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2007年09月19日

任天堂の持つ莫大なキャッシュはただの『盾』ではなくむしろ『槍』である はてブで『任天堂の持つ莫大なキャッシュはただの『盾』ではなくむしろ『槍』である』をチェック

ゲーム業界の覇者・任天堂が無借金経営約1兆円にも上る桁外れの現金を保有している事はファンや業界通の間では有名です。
この10年間の間は、PSの登場で覇権を失ったにもかかわらず1年で1000億円ちかく貯蓄が増えたりする事もある異常な体質にただ驚くだけでした。
そうした超堅実経営は日経の企業ランキングにおいて安全性の項目で100点満点が付くほどです。
つい昨日発表された今年の優良企業ランキングでは任天堂が五年ぶりに1位を獲得しています。

しかしこのランキングでも収益性と成長力においてはトップ200圏外となっているそうです。
同日、ビジネスメディア誠で個人投資家が見る任天堂の経営についての記事がアップされました。
優良企業ランキングについては記事内では一言も書かれていませんが、アップのタイミングと記事の主な内容が任天堂の収益率の低さについての指摘なので、まず間違いなくランキングの発表が執筆動機であったと考えられます。

よい企業とは、少ない資本でたくさんの利益を上げる企業に決まっている。任天堂の場合、利益は極めて大きいが、ありあまる現金を寝かせてしまっているために、分母となる資本が大きく、したがって資本効率が低くなってしまうのだ。実は、任天堂は資金の多くを定期預金に預けている状態である。これでは株主の期待利回り8%には到底届かず、資本効率を低下させるばかりだ。

その通りです。
投資家的な見方でいえば1兆円にも及ぶ現金を塩漬けにしている任天堂は必ずしも優等生では無いといえます。
まともな投資家ならばそれだけの資金を何故新たな成長を生み出すための投資、たとえばM&Aや設備投資、研究開発に投じないのかと考えるのは当然ですね。

しかし、こうした問いには昔から言い古された反論がお決まりのように返ってきます。

『娯楽産業はいつ必要とされなくなってもおかしくない極めて不安定な基盤の上に成り立つ産業である。危機に対応するために現金を蓄えておく事は重要である。』

2006年5月に発表された任天堂の会社計画によると、2007年3月期の予想売上高は600億円だが実際は960億円。また、予想経常利益は110億円だが、実際は260億万円と大きく外れている。ちなみに、インフラビジネスや食品ビジネスの場合、会社予想の誤差は5%程度。任天堂自身でも予想がいかに難しいか分かる。
これらから分かるのは、ゲーム産業は、関係者や専門家、あるいは会社自身にとっても予測の難しい“水モノ”の業界だということだ。
エンターテインメント業界の予測可能性の低さは、任天堂に現金の保有率を高めるという大きな影響を与えることは間違いない。しかし任天堂の過去10年の売上高、利益、利益率の変化を見てみると、不安定な市況環境と言いつつも、継続的、安定的に利益を創出していることが分かる。
これはつまり、任天堂は、不安的な市況環境を吸収する事業構造をしているということになる。ではなぜこのように過剰に厚い資本を貯めておくのだろうか?それをひもとくには、さらにさかのぼって任天堂の歴史を知らなければなるまい。

任天堂はかつてはタクシーやインスタントライスやコピー機やラブホテル経営など、なんの会社かわからない程にいろいろな事業を展開しその全てで失敗しました。
結局、娯楽で生きていくしかないと悟り横井氏のエレクトロ玩具に活路を見いだしますが、成長路線が軌道に乗り遊技場経営に乗り出したところでオイルショックが発生、投資はそのまま莫大な負債になってしまいました。
現在の無借金現金貯め込み経営は先代社長の山内氏が幾度も倒産直前まで陥った経験から取られたものです。

しかし、任天堂のこの経営手法が生み出した物はけして守りに入った無難な経営だけでは無いと僕は考えます。
むしろ、任天堂の現在の攻めの経営を支える物こそがこの圧倒的な資金力ではないかと思えるのです。

任天堂以外のソフトメーカーを見てみるとそれは明らかではないでしょうか?
多くのメーカーが存在しながら新規タイトルがなかなか登場せず多くのヒットゲームは続編だらけという状態が続きました。
偶然そうなったのではなくてこれには理由があります。
プラットフォームの高度化による開発費の高騰と潜在ユーザーの減少がその主たる原因にあげられます。
開発費はあがっていくのに、売り上げは逆に減っていくのですからメーカーは固定ファンがいて確実に売れるタイトルへの依存度がどうしてもあがっていきます。
そうすると新たなヒット作が出ず、新たにゲームを始める人は少なく飽きて卒業していく人ばかり増えるというネガティブスパイラルに市場全体が陥っていきます。
そして、中小メーカーの倒産が相次ぎ、業界全体で再編が進みます。
象徴的なのは国内の二大RPGメーカーであったスクウェアとエニックスの合併、バンダイとナムコの経営統合です。
そんなゲーム不況の中で任天堂はニンテンドーDS、Wiiを開発しこれまでのシリーズものではない膨大な新規ヒットタイトルを生み出したわけです。

なぜ、他のメーカーには出来ない新規市場の開拓が任天堂だけには出来たのか。
これこそが莫大なキャッシュが生み出した任天堂の余裕の現れだと言えないでしょうか。

任天堂は社内に実験プロジェクトのチームが無数に存在しているといいます。
その多くは実際に世に出ることのない物を作っていましたが、現岩田体制ではそれまで社内でとどまっていたプロジェクトの多くが実際に商品として世に出ることになりました。

たいていのメーカーはヒットするかどうかわからないラインを大量に動かすような資金的余裕がありません。
しかし任天堂は資金の問題はないので、そうしたプロジェクトがつねにたくさん存在しています。
そして、もしそうした新しいタイトルが完成したとしても多くのメーカーの場合は新規タイトルは注目されることすらなくそのまま消えていきます。
しかし、ここでも任天堂はその桁外れの資金力でスポットCMを大量投入してヒットにつなげます。
一昨年からのDSブームの顔的存在である脳トレを他社が発売していたらどうなっていたか考えればすぐに想像が付きますよね。
任天堂の桁外れな資金力があったからこそ、あれだけ多くの新規プロジェクトが世に出てそれが大ヒットする事が出来たんです。

ですから、上記記事のこの部分、

しかし任天堂の過去10年の売上高、利益、利益率の変化を見てみると、不安定な市況環境と言いつつも、継続的、安定的に利益を創出していることが分かる。
これはつまり、任天堂は、不安的な市況環境を吸収する事業構造をしているということになる。ではなぜこのように過剰に厚い資本を貯めておくのだろうか?

これは逆の話で、『厚い資本が蓄えられているからこそ、時代の変化に対応し継続的に安定した利益を生み出す新規ヒット作を生み出す事が出来ている』という事が言えると思います。
ドラクエやポケモンみたいに10年もつタイトルなんてこの世界にはほとんどありません。
任天堂に安定した利益をもたらしている真の強さとは、潤沢なキャッシュに支えられた新規タイトルの圧倒的な打率の高さです。
バブル状態の今みたいに1兆円も現金が必要かといえばそうではないですが、莫大なキャッシュを失ってしまえば任天堂は失敗のリスクを怖れずに変なソフトや新しいソフトをポンポンと生み出す創造力を失ってしまい、過去の遺産で失敗しないように食いつなぐ普通のソフトメーカーになってしまうという事は間違いないです。

任天堂の莫大な現金保有はよく言われている『企業経営上のパニック耐性を高めている』という守りの効果だけではありません。
わけわからんものを一杯作ってその中からヒットを生み出し時代を切り開くという他社にはない活力の源泉であり、任天堂の攻めの経営を支えているのが莫大な現金という事はもう少し知られていて欲しいかなと思った次第です。


9月22日追記

はてブのコメントにはてなスターのコメント使ってレス返そうと思ったんですが機能がよくわかりませんでしたのであきらめて普通にここに追記します。

はてなブックマーク - Glassleaf: 任天堂の持つ莫大なキャッシュはただの『盾』ではなくむしろ『槍』である

2007年09月21日 youzinnbou25 任天堂の資本政策を批判する↑の記事に対する反論。正直、どっちも正論に見える。投資家側と経営者側という視点の違いなのかなぁ・・・・・・?
反論のつもりでは無いんですよ。 立場の違いがあって投資家とすれば歯がゆいのは当然だと思います。 だから、
投資家的な見方でいえば1兆円にも及ぶ現金を塩漬けにしている任天堂は必ずしも優等生では無いといえます。
まともな投資家ならばそれだけの資金を何故新たな成長を生み出すための投資、たとえばM&Aや設備投資、研究開発に投じないのかと考えるのは当然ですね。

こう書いてるわけなんですね。
エントリーアップするときも、読んだ人に反論してるように見られないかな~?とちょっと不安だったので、やっぱりそう読めるか~といった感じ。
補足が必要ですね。

僕が言いたいのはキャッシュの存在が、ファンの擁護意見からすらも守りの面だけでしか言及されないけれど実際にはそれは任天堂の最大の武器として機能している事にも気づいて欲しいなって事です。
ファンならなおさらですね。
経営者側からの視点ではなくてユーザー側からの視点で僕はそう思ってます。
あのキャッシュが無かったら絶対守りに入ったゲーム作りをするつまらない会社になってるよなぁ、とそう思いますもん。

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コメント :4 件のコメントがあります

http://www.1101.com/iwata/2007-09-12.html
>「安易な道へ流れない」というのは、
>いま会社が食えてるから言えるんでしょうね。

ほぼ日の岩田社長インタビューです。
博打は資金が豊富な方が必ず勝ちます。

柳川さん、コメントありがとうございます。

糸井さんとこでインタビューやってたんですね。
ヒマ見つけて最初から読みます。

>岩田 そうは言っても食えなかったら、
>   まずは確実に売れるほうを選ぶかもしれない。

そのものズバリ言ってますね。
金があると勝負でも選択肢は広がりますし何度でも勝負賭けて取り返せますからね。

今は、かつてのゲーム会社がゲーム開発以外のことも行っていますよね。確かにゲーム開発はプラットフォームに左右され、しかもどれだけ売れるか分からないですし、その一連の流れは納得いきます。しかしそういった展開の基本ともなるような一次的なコンテンツ(=新しいゲームやキャラクター)をどんどんつくって世に送り出していこうという姿勢がほとんど感じられないコナ○、スク○ニ…。
たかだかファミコンスーファミ時代の10年で生み出されたキャラクターやゲームシステムが激しい淘汰を経て、PS、PS2、そしてPS3、Wii、DSとプラットフォームを移しながらもずっと概形を保ち続けているのはすごいことだとは思います。しかしもともと個人の卓越した発想に依存しているものを自分たちの会社経営の柱に据えようとするのは無理があるように思います。果たしてこれらのサードパーティーは10年後やその先のゲーム業界を見据えているのでしょうか?この2社はどういう戦略を持っているとお考えですか?
このままいくとスクエ○出版とコ○ミジムになっちゃうんじゃないだろうか(不安)

plutonさん、コメントありがとうございます。
コナミやスクエニをはじめとしたサードパーティが一次コンテンツを生み出す事への熱意を失っているように見えるという件、懸念はよくわかります。
カプコンみたいに財務の厳しさからは不思議なくらい新規タイトルぽんぽん作ってヒット作を出す変な(w)会社もありますが。
プラットフォームや市場環境の変化で会社経営のリスクが10年前に比べて飛躍的に高まったため、博打的なゲーム開発を柱とするのは非常に危険な事になってしまったんですよね。
こればかりはサードパーティに責任を負わせるのは少々酷なことだと思います。
10年後や20年後のゲーム業界に関して戦略を持っているサードパーティなどはほとんど無いでしょうね。
目の前の決算の事で精一杯なのが現状だと思います。
合併やグループ形成によるコンテンツの多様化、安定した柱となる別事業への進出はゲームメーカーがゲームを作り続けるためには避けられない事でしょう。
こうした現状に対する危機感が新たな市場の創出という任天堂の戦略目標が生まれる動機となったわけですね。
幸いDSのヒットで多くの非ゲーマーがゲームに興味を持つようになったのでそれらの層を引きつけるようなタイトルがどんなものか各社知恵を絞っているようです。
その中から次世代の主役となるコンテンツが生まれる可能性は少なくはないと思いますよ。
これからも業界の事情は厳しいでしょうが、DSの登場を契機に大手に代わって身軽な中小メーカーが力をつけ始めているのが見て取れるのであまり悲観はしてません。
個人的にはマーベラスエンターテイメントとか良い感じになってきたなと思ってます。

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